不確定日記(水音どうし)

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 踊るのは嫌になっていない。汗をたくさんかくのが面白くて一日20分ほど動いてみている。たくさん水を飲んでシャワーを浴びるようになった。歩くと意外な部分の筋肉痛に気づく。ついでに測ってみた体重は増えも減りもしていなかった。


 最近見る夢は駅か乗り物が多い。家から遠く離れた場所に一人でいるさみしさが毎朝少し残っている。旅のことを思い出す時、だいたいが乗り物のことだ。空港のロビーの廊下の長さと天井の高さ、東京駅の地下街で買う弁当、台湾の新幹線が混んでいて連結部で夕日を見たこと、朝の知らない駅ビルのトイレ、車窓から見る森の黒さ、品川あたりでようやく東京に帰ってきた実感が出てホッとすること。私は寂しくなりたいみたいだ。

 雨が多く降るようになった。傘をさすのが苦手で散歩に出かけていない。台所や風呂場の吸盤フックが湿気によって度々落ちてひどい音がするのと、擦り落としてもすぐはえてくる黒カビによって季節を実感する。仕事も詰まっていて外に出なかったので、時折窓を開けると水音がして驚く。最近の梅雨はしとしとよりはザバーというかんじだ。私の住んでいる部屋は向かいが銭湯なので、窓を開けておくと毎日水を流す音や湯桶とタイルの当たる音、もわっと意味は汲み取れない話し声、ブラシで擦る音などが聞こえてくるが雨音がすると聞こえない。向かいとの間の道路に薄い幕が張ったようだ。道を通る人の声は聞こえる。小さな子供が後から来る大人に大声で「どっちにいけばいい?」と聞いている。行き先がわからないまま雨の中を走れることを羨ましく思う。答えは「どっちでもいいよ」。いいんだな。私は今日も部屋から外に出なかった。

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