不確定日記(大きな木/猿のほうのスカート)

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■友人たちと散歩がしたくて植物園に行った。そこへ入るのは小学生以来だったけれど、入り口の芭蕉の木を憶えていた。入り口からほど近くのメタセコイアを見上げたがてっぺんがどうなっているのかはまるで見えない。地面にはもぐらの開けた穴がいくつもあり、土はふかふかしていて気持ちが良かった。ベンチでそれぞれが持ってきたパンを食べ、ちょっとだけスケッチをした。友人は蚊を恐れて、足の裏を拭くと刺されないらしい説に従って拭いていた。私は拭かなかった。園内には植物を観察している人、売店でただアイスを食べている人、親子連れなどポツポツと人がいて、子供たちは声をあげたり、草刈りや噴水の水音もしているが印象としては騒がしくない。辺りに土や木ばかりで音が反響しないせいだろうか。温室なども見ながら奥へ進むとどんどん大きな木ばかりになる。立派な樫を見つけ、それぞれが脇に立って記念写真を撮りあった。大きな木を見てはネームプレートを確かめ上を見上げ、葉の形を確かめる。想像で絵に描く概念としての「木」とはどれも全く違う。菩提樹の近くでシューベルトの「菩提樹」を歌ったつもりになったが帰って調べたら私が歌っていたのは「ます」だった。子供の頃は家に大きな木が生えていたらいいのにと思っていたが、今見ると自分が所有できるようなものではないと思える。たまに見上げに来たいと思った。広葉樹の奥が針葉樹の森で、一番端の東屋に着いたあたりで雨が降り出し、早足で出入り口まで帰る途中、草刈りの車に追い越された。友人は今度は雷を怖がっていたが大降りにはならなかった。
だいぶ前に一人でフジロックに行った際、両方の脛をダニに噛まれて酷いことになって以来、野山で足を出さないようにしているが、家に帰ってみたら出ていた両手は6箇所蚊に刺されていた。

■相変わらず晴れて暑い。梅雨はもう来ないのではないか。夜、暗くなっても温度の下がらないベランダで干していた洗濯物を取り込む時にぎゅっと懐かしくなったがそれが何かとっさにはわからなかった。昨日履いていたインド綿のスカートからする古着特有の甘さと洗剤の混じったにおいだろうか。小学生の時に、知り合いからお下がりでもらったどこかアジアの巻きスカートのことを思い出す。くたくたの木綿の巻きスカートはゴムが当たって痒くならないので好きだった。青いのと緑のがあり、両方とも線画のプリントがしてあって緑の方には猿のイラストがついていたことまではどうにか思い出した。もう一方は思い出せない。多分わたしは猿のほうが好きだったのだ。同じ時期に家にあったシンバルを叩くぜんまい入りおもちゃの猿のことも思い出す。機械の入った猿は他のぬいぐるみより硬いしシンバルは金属だから冷たかったけれど、剥げた絨毯みたいな表面の触り心地は嫌いではなかった。おどけていないシリアスな顔もよかった。スカートの猿も神様っぽくて笑ってはいなかった。昔から人と目を合わせるのが苦手なので、不特定多数にむかって笑っていないものを見ると安心する。最近もわりと猿の動画を眠る前に見る。ワオキツネザルの咀嚼音を聞くとよく眠れる気がする。ポストを見に行ったらワクチン接種のクーポン券が入っていた。

植物園の売店は自動販売機だけがやっていた