不確定日記(耳にはなにもない)

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不確定日記

 めまいのことを面白がってSNSに書いたら心配した人たちから連絡が来てしまった。一人暮らしだから、家でひっそり具合悪くならないように全部書くようにしているところもあり、ありがたいが申し訳ない。たいしたことないよ、と言いたいので病院に行った。

耳鼻科は混んでいた。待っている患者たちは緑色のビニールソファにそれぞれ一人分ぐらいずつ隙間を開けて座っているが、そこは「空き」だ、という不文律がこの一年でできている。スマートフォンに入れてあった『女の園の星』を読みながら待つ。座っている半分くらいは幼児と保護者だから待ち時間の半分弱は嫌がって泣く声が聞こえる。診察室から出てきた親子はそのまま窓辺に向かい、無言でしばらく眺めていた。私も耳鼻科の銀色で長いのや円錐の何かが怖かった。今そんなに怖くないのはあれらを自ら差し込まれに行っているからだろうか。耳鼻科医はマスク、ゴーグル、ヘアキャップ、手袋をつけている。めまいのことを言って平衡感覚に問題がないことを確認される。目をつぶって手を伸ばし、舌を左右に動かし、医師の青い手袋が揺れるのを真似て手を動かす(心中で「きらきら」と思う)。特定の方向を向くとめまいと同時に目が揺れる「眼振」を起こすテストをする。瓶底のさらに分厚いようなゴーグルをかけ、看護師と医師に支えられながら首の向きを変えて寝たり起き上がったりするが、何も起きなかった。こういうのはやっぱり少しがっかりする。とても良いことだが、本当にたいしたことはなかった。自分の眼球が揺れるのを少しだけ見てみたかった。そのあと聴覚の検査もする。小窓の向こうにいる人に聞こえた音の方角を指で示しながら聞こえている間はボタンを押す。自信がない時はできるだけそういう顔をしてみたがマスクもしているので伝わりづらいし伝わったとして検査技師も困っただろう。
まだ少し残っているめまい用の薬を処方され、診察料を払おうとしたら小銭をかき集めてみても百円足りなかったので恐縮しながらお金を下ろしに行った。手持ちがないというのが恥ずかしく、コンビニでいつもより多めに引き出した。

チョコパン
帰って自分を甘やかすようにチョコレートとクリームチーズを挟んだホットサンドを焼いて薬を飲んだ。